「へその緒」を預かりました(1月8日)

 本日朝、長崎県五島市奈留の港で、カネミ油症被害者岩村定子さんから、1973年8月に
生まれ、わずか生後4か月で亡くなった長男満広さんと繋いだ「へその緒」をお預かりして
きました。来たる1月12日(金)記者懇談会の場でメディアの皆さまにご覧いただき、報道
して頂きたいと考えています。お預かりしたへその緒は、小さな容器の中に納められ、木箱、
さらにビニールの袋に入っています。

「へその緒プロジェクト」宣言!

 皆さま 新年あけましておめでとうございます。

 映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」製作委員会の稲塚秀孝です。年明けから本格的に「へその緒プロジェクト」を展開します。

 今から56年前に起こった「カネミ油症事件」。その被害者が次世代に拡がっています。母から子へ、そして孫世代へ。PCB(ポり塩化ビフェニール)の毒性を繋いでいるのが「へその緒」なのです。「へその緒」を通して子に、孫に毒性が及んでいることに着目し、「カネミ油症被害者」の確定と救済につなごうとする取り組みを進めて行きたいと思います。

 何が起こったのか?を記録し、告発するのが、ドキュメンタリー映画の真髄ですが、この映画では、「へその緒プロジェクト」と共に、カネミ油症被害者に寄り添いながら、製作を行います。

 提案型の映画製作活動に皆さんからのご支援、ご協力をお願いいたします。現在映画製作支援のクラウドファンディングを実施しています。https://congrant.com/project2024/9712   からお願いいたします。

                                     映画監督 稲塚秀孝

映画最大のポイント「へその緒」について

 母から子へダイオキシン類の毒性が繋がったことの証明となる「へその緒」の検査を徹底させ、被害者の認定制度を糺したいと思っています。稲塚監督から本映画の鍵となる「へその緒」に関する研究についてコメントをいただきました。▽動画はこちら

 1968年に主に西日本で発生したカネミ油症事件。様々な障害・被害が起こりましたが、その後お母さんの母体からお子さん・孫へとそのダイオキシン類(PCDF)の毒性がつながったことが、今問題になっています。

 事件発生から50年以上経っていますが、いまだこの問題は解決していません。本映画の製作にあたっては「へその緒」を調べることによって、今に至るもダイオキシン類の毒性があるということを証明したいと思っています。

 母から子へダイオキシン類の毒性が流れたことの実証こそ、この映画を通じて皆さんに知ってほしい最大のポイントであり、被害者の認定制度という欺瞞を抜本的に糾すことにつながります。この点こそが、本映画の”社会的意味”であると確信しています。

 映画製作にあたってはクラウドファンディングを実施中です。半世紀以上たっても続くカネミ油症事件の真相を伝えるため、映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」の製作にご支援をお願いいたします。 
★クラウドファンディング★実施中(12月20日~2月29日)・目標金額:1,000万円

「へその緒」とは何だろうか?

 「カネミ油症事件」発生は1968年。九州大学油症治療班が、「へその緒」の検証をしたのは、
2007年以降で検証報告は2009年でした。事件発生から数年後には、原因物質がPCB(ポリ塩化
ビフェニール)と言われていたので、当然被害者が女性の場合、体内に蓄積した毒性物質が
「へその緒」を通じて、胎児の体に送られることは容易に理解でできたはずである。

 では「へその緒」とは何であろうか?「胎児は胎盤を通して母側から酸素や栄養分を受け取り、
老廃物を母体側に渡し、胎児と胎盤を繋いでいるのが臍帯、つまりへその緒である。概ね太さは
2㎝、長さは50~60㎝の管状である。」

 今こそ「へその緒」の検証・鑑定することで、ダイオキシン類は母親から子に繋がっている
証明を求めたいと考えている。そして認定、未認定に峻別される不条理を粉砕し、幅広く被害者
救済を国にさせたいと願っています。 
                               映画監督   稲塚秀孝

なぜ、”今“「へその緒」なのか?

 1968年に発生した「カネミ油症事件」は単なる食中毒事件ではありません。普段見聞きする
食中毒は、夏場のお弁当やこの夏は「流しソーメン」の機材の衛生環境から、実際に食した、口に
入れた皆さんが、下痢や嘔吐などを繰り広げるものですが、当事者の健康が回復すれば、収まる
傾向のものです。ただ「カネミ油症」では、「カネミライスオイル」を口にした母親から子や、孫
に、ダイオキシンの毒性が伝達されて、障害が起きていることに、特異性があります。

 九州大学油症治療班は、事件発生から40年経過した2007年~2009年にかけて、へその
緒を集め、検査をしました。そして2009年5月発行の「福岡医学雑誌」で2たつの報告が掲載
されています。

 一つは九州大学と福岡県保健環境研究所のチーム。もう一つは摂南大学薬学部宮田秀明教授を
中心としたチームです。その頃、ある新聞では「カネミ油症 胎児期汚染を証明」と見出しに書か
れています。しかしそれ以来15年間、「へその緒」調査は一向に進んでいないのです。

 「母と子の絆」である「へその緒」の徹底調査こそ、カネミ油症が次世代に及ぼす甚大な影響を
考察できる大きなツールであると思います。近々ご報告を続けます。
                                映画監督   稲塚秀孝

「へその緒」を検証することが急務

 「カネミ油症事件」発生から55年経過した今、改めて母親から子や、孫にPCB(ポリ塩化ビフ ェニール)の毒性が繋がった「へその緒」を検証することが急務です。

 これまでも九州大学油症治療班では、2009年の「福岡医学雑誌」に報告していますが、なぜかその後「へその緒」について、蔑ろにされてきています。こちらは長崎県在住のカネミ油症患者が保管する「へその緒」です。一度九州大学の検査後、返還されたもので、微量しか残されていません。1973年に誕生した男児と繋いでいた「へその緒」ですが、生後4カ月で亡くなりました。女性は今も訴えます。「息子がカネミ油症で口蓋口唇裂などで亡くなったことを証明してほしい」と。

 今もこの「へその緒」は木箱に収められ、大事に神棚に載せられています。こちらがカネミ油症事件の原因となった「カネミライスオイル」の1升瓶と一斗缶です。 
                                映画監督    稲塚秀孝
【参考資料】
油症被害者の次世代以降の子孫を対象とした汚染実態を究明するための「保存さい帯(へその緒)」
 試料の有効性
 (摂南大学名誉教授 宮田 秀明)

    カネミ油(一升瓶と一斗缶)


油症被害者の次世代以降の子孫を対象とした汚染実態を究明するための「保存さい帯(へその緒)」試料の有効性

摂南大学名誉教授 宮田秀明の論文です。

 受精から出生までの胎児期は、細胞が激しく分裂・増殖しており、染色体は、環境汚染物質や化学物質等による影響を受けやすい状態となっている。それ故に、胎児は、環境汚染物質に対する感受性が成人よりも10倍程度も高いと推定されている。換言すれば、胎児は、成人よりも10倍程度も環境汚染物質等の汚染影響を受けやすい。

さらに、近年、胎児期において、超微量の環境汚染物質や農薬等による遺伝子の化学修飾(エピゲノム変化)が起こり、その生体影響が系世代的に及ぶことが問題となっている。

事実、上記の事象を反映して、京都で開催されたDioxin2019国際シンポジウムでのFijinoらの研究発表1において、北九州市に在住するカネミ油症認定者の子供4人全員が異常出産で生まれ、その後、小中学校への登校拒否などの発達障害および全身倦怠や労働困難などの障害で発症している。

また、名古屋市に在住するカネミ油症認定者の第二世代の子供4人は、いずれも血小板の機能異常であるグランツマン血小板無力症を発症しており、また、その中の2人は、臼歯あるいは切歯の先天性欠損症が認められる。切歯の先天性欠損症は、第3世代の女児にも確認されている。

このように、カネミ油症の原因物質である残留性の強いダイオキシン類は、原因油を直接摂取した当事者だけでなく、当事者の次世代子孫(第2世代子孫、第3世代子孫等)にも有害性を及ぼす。

上述したように、胎児は、油症原因物質であるダイオキシン類に対して成人よりも10倍程度も感受性が高いこと、および次世代への遺伝子の化学変化による影響を受けることを考慮すると、油症原因物質による次世代胎児の汚染実態を究明することが極めて重要である。しかし、残念なことに、油症原油摂取者(被害者)の次世代子孫(第2世以降の子孫)を対象とした出生時における血液の分析は、皆無の状態である。

新生児を暴露している油症原因物質の濃度は、新生児の成長に伴う体重の増加による物理的希釈、体内の代謝機能による排泄および体内の代謝機能によらない排泄等によって、新生児の成長とともに低下する。

このようなことを考慮すると、「保存さい帯(へその緒)」は、新生児の出生時における汚染実態を把握するための最適な試料と考えられる。即ち、「保存さい帯」は、母体と胎児を結ぶさい帯の一部を出産後に切り取られ、家庭で保存されたものである。従って、さい帯の原因油物質濃度は、出産時点での母親から新生児の体内に移行する原因物質濃度を反映しているものと推察される。事実、この推察は、福岡県保健環境研究所の梶原らの研究2によって実証されている。即ち、油症原因物質の中でも最も毒性と在留性が強い2,3,4,7,8-五塩化ジベンゾフラン(2,3,4,7,8-PeCDF)が油症患者のさい帯に高濃度で残留しており、その濃度は健常者(非汚染者)の約40倍にも達する。

油症原因物質に対する胎児の高い感受性やエピゲノム変化による影響を考慮すると、油症原因油摂取者の次世代子孫の汚実態の究明が極めて重要であり、「保存さい帯」は、その汚染実態究明における最適な指標試料であると強調される。

引用資料

1 Tadashi Fujino, Reiko Takeda, Yasuichi Miyakawa: SYMPTOMS IN CHILDREN OF THE SECOND AND THIRD GENERATIONS OF KANEMI YUSHO PATIENTS、Dioxin2019 Short paper(Kyoto、2019)、474-477

2 梶原淳陸、戸高 尊、平川博仙、堀 就英、安武大輔、中川礼子、飯田隆雄、長山淳也、吉村健清、古江憎隆:油症患者の保存さい帯(へその緒)中のダイオキシン類濃度、福岡医誌、100、179–182、 2009