油症被害者の次世代以降の子孫を対象とした汚染実態を究明するための「保存さい帯(へその緒)」試料の有効性

摂南大学名誉教授 宮田秀明の論文です。

 受精から出生までの胎児期は、細胞が激しく分裂・増殖しており、染色体は、環境汚染物質や化学物質等による影響を受けやすい状態となっている。それ故に、胎児は、環境汚染物質に対する感受性が成人よりも10倍程度も高いと推定されている。換言すれば、胎児は、成人よりも10倍程度も環境汚染物質等の汚染影響を受けやすい。

さらに、近年、胎児期において、超微量の環境汚染物質や農薬等による遺伝子の化学修飾(エピゲノム変化)が起こり、その生体影響が系世代的に及ぶことが問題となっている。

事実、上記の事象を反映して、京都で開催されたDioxin2019国際シンポジウムでのFijinoらの研究発表1において、北九州市に在住するカネミ油症認定者の子供4人全員が異常出産で生まれ、その後、小中学校への登校拒否などの発達障害および全身倦怠や労働困難などの障害で発症している。

また、名古屋市に在住するカネミ油症認定者の第二世代の子供4人は、いずれも血小板の機能異常であるグランツマン血小板無力症を発症しており、また、その中の2人は、臼歯あるいは切歯の先天性欠損症が認められる。切歯の先天性欠損症は、第3世代の女児にも確認されている。

このように、カネミ油症の原因物質である残留性の強いダイオキシン類は、原因油を直接摂取した当事者だけでなく、当事者の次世代子孫(第2世代子孫、第3世代子孫等)にも有害性を及ぼす。

上述したように、胎児は、油症原因物質であるダイオキシン類に対して成人よりも10倍程度も感受性が高いこと、および次世代への遺伝子の化学変化による影響を受けることを考慮すると、油症原因物質による次世代胎児の汚染実態を究明することが極めて重要である。しかし、残念なことに、油症原油摂取者(被害者)の次世代子孫(第2世以降の子孫)を対象とした出生時における血液の分析は、皆無の状態である。

新生児を暴露している油症原因物質の濃度は、新生児の成長に伴う体重の増加による物理的希釈、体内の代謝機能による排泄および体内の代謝機能によらない排泄等によって、新生児の成長とともに低下する。

このようなことを考慮すると、「保存さい帯(へその緒)」は、新生児の出生時における汚染実態を把握するための最適な試料と考えられる。即ち、「保存さい帯」は、母体と胎児を結ぶさい帯の一部を出産後に切り取られ、家庭で保存されたものである。従って、さい帯の原因油物質濃度は、出産時点での母親から新生児の体内に移行する原因物質濃度を反映しているものと推察される。事実、この推察は、福岡県保健環境研究所の梶原らの研究2によって実証されている。即ち、油症原因物質の中でも最も毒性と在留性が強い2,3,4,7,8-五塩化ジベンゾフラン(2,3,4,7,8-PeCDF)が油症患者のさい帯に高濃度で残留しており、その濃度は健常者(非汚染者)の約40倍にも達する。

油症原因物質に対する胎児の高い感受性やエピゲノム変化による影響を考慮すると、油症原因油摂取者の次世代子孫の汚実態の究明が極めて重要であり、「保存さい帯」は、その汚染実態究明における最適な指標試料であると強調される。

引用資料

1 Tadashi Fujino, Reiko Takeda, Yasuichi Miyakawa: SYMPTOMS IN CHILDREN OF THE SECOND AND THIRD GENERATIONS OF KANEMI YUSHO PATIENTS、Dioxin2019 Short paper(Kyoto、2019)、474-477

2 梶原淳陸、戸高 尊、平川博仙、堀 就英、安武大輔、中川礼子、飯田隆雄、長山淳也、吉村健清、古江憎隆:油症患者の保存さい帯(へその緒)中のダイオキシン類濃度、福岡医誌、100、179–182、 2009

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