阿部泰隆弁護士に聞く

「カネミ油症裁判」の掘り起こしが必要だと考えている弁護士がいる。阿部泰隆(81歳)。東大法学部卒業後、助手を経て、神戸大学法学部助教授・教授、定年後、弁護士兼中央大学総合政策学部教授となる。専門は行政訴訟・国家賠償法を含めた行政法全般、特に行政と裁判所の腐敗を告発し、国民の人権を守る合理的な法システムの創造を提唱している。平たく言えば国の不作為の犯罪を許さない男である。兵庫県芦屋市、JR芦屋駅からほど近いレンタルスペースに、「山登りでもするかのような扮装で」やってきた。

「カネミ油症事件」が数々の裁判を行っていた時、ある弁護士から声がかかる。「国の責任を公判で明らかにしてほしい」と。「国家補償法」「行政法の解釈」など分厚い本を次々と書くが、全く売れないと嘆く。カネミ油症事件で着目したのは、世にいう「ダーク油事件」。カネミ倉庫からライスオイル製造の搾りかすで、鶏卵の飼料となったが、これが「カネミ油症事件」の予兆だったと訴える。福岡県の行政官が、“縦割り”の弊害で、しかるべき部署に報告していなかった。ましてカネミ倉庫の加藤三之輔(当時)のやり取りで、「俺はいつも油を食べているが、何ともないよ」と。

 1987年3月、最高裁で各原告団(1896人)が製造者企業カネカと和解。国は和解に応じず、福岡地裁、高裁で原告が勝利して得た仮執行金をその10年後に返済を求められ、自殺者や家族崩壊が起きた。当時の国への訴えを取り下げたことは正しかったのか?もっと有効な手立てがあったのではないか?ここまで国の責任を舌鋒鋭く指摘していた阿部さんは、同じ弁護士として“逡巡”の貌を見せたと感じたのは、見間違いだったのだろうか?

  既に当時一線で闘っていた被害者の第一世代は、退いている。何があったのか?この映画が伝えなくてはいけない“本丸”に違いない。
                             取材  稲塚秀孝

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